前日記でじゃあお前が書けよといわれたので。
昨晩早速書いたものを公開します(^ω^;)
試験とか締め切りとかやばいだろ常識的に考えて…

それはさておき文章だけでいろいろ表現するのって大変ですね…いや 漫画は漫画で大変なんですけどね。絵を描くのとかトーン貼るのとか小物描くのとか。

スピンオフって言っておきながら主人公の村田少年はまだ単行本収録されていないという。




―ある週末。

 殺人的に蒸し暑い新宿アメニティ店内、僕は1年ちょっとのマジックライフで最も重大な試合に臨む。
宿命のライバルとのデュエルではない。この相手とデュエルするのは4ヶ月ぶりで、そもそも通算で二試合目だ。
絶対に負けたくない怨敵でもない。むしろ僕にとっては憧れの人といったほうがいい。
K値の高い大会でもない。高々FNMの決勝戦だ。

 対戦相手の名前は神川愛良 ―4ヶ月前大きな大会で一度当たった時に聞いた名前― 次元の「神河」と同音で一文字違いの名を僕は決して忘れないだろう。黒いショートカットの髪に白い肌、そして「大人のオネエサン」をそのまま絵に描いたような顔立ち―高い鼻、長い睫毛、艶のある唇、左目下の泣きぼくろ―は一回戦開始前に会場内ですれ違った瞬間に目に焼きついていた。そしてアニメか何かの登場人物のような華美なゴシックファッションが彼女の周りだけ独特な雰囲気を作っていた。

 今日アメニティで偶然の再会をしてマッチング発表を待つ間神河さんは僕に気づいて、少し微笑んで会釈をしてくれた。
 彼女に色目を使う男は多いだろう。それもこの男ばかりのこの界隈ではなおさらそのはずだ。そんな男どもを彼女はいちいち覚えているのだろうか。ぼんやりそんなことを考えながら2回戦を終了し、わずかな期待とともにマッチング表を見る。



table point point
1 Murata, Noriyuki 6 - Kamikawa, Aira 6



思わずガッツポーズ。

新宿アメニティのFNMは参加者が30人を越えることもある。したがって全勝同士だからといって必ず3回戦であたるとは限らないのだ。正直30人で3回戦というのはかなり大雑把な話だが、借りているビルの都合もあって10時まで店を開けて4回戦、というわけにもいかないそうだ。

今回運よく2連勝できて本当によかった。普段からFNMでは負け越している方ではないのだが、いつ事故るか判らないのがマジックである。

―いや、本当に運がいいならそもそも一回戦で神川さんと当たれていたのではないか?

ともあれ掴んだチャンスを逃さないぞ、と自分に言い聞かせながらそそくさと自分の席に着く。僕はほとんど毎週ここでFNMに出ているのだが、神川さんはこの店の大会に不慣れで1番テーブルを探してきょろきょろしている。ここですよ神川さん、と手を振りたいが、「何名前覚えてんのよ」とのカウンターをケアし、冷静にサイドボードをチェックしながら彼女の到着を待つ。


「お待たせしました。」
そして ああ、あなたでしたか といった感じでちょっと肩をすくめる神川さん。
「お願いします。」
「あ、お…お願いします。」
神川さんは背筋を伸ばし、目を閉じて礼をする。僕もあわてて背筋を伸ばす。

「じゃあダイスの和が大きいほうが先攻で―。」
僕はあらかじめ準備しておいたダイスを差し出す。
「では失礼して。」
失礼して、なんて言いながらダイスを借りる人なんて見た事がない。この人はどんな些細な行動も「優雅」という言葉がぴったりくるやり方をする。シャッフルにしても実に軽やかに行う―まるで貴族のティータイムのように。
 彼女の手から転がり落ちたダイスの目は11。僕は振る前から半ば戦意喪失しながらダイスを拾い、9の目を出す。
―先攻頂きます…マリガンありません。
彼女の穏やかな笑顔が不敵な笑みに変わる。
デュエル中以外は見せない挑戦的な目が僕を見つめる。
「こちらも、キープです。」
昂ぶる心を抑えながらやっと言う。




勝負は三本とも呆気なく付いた。
 一本目は僕の「窯の悪鬼スライ」が《二股の稲妻》や《噴出の稲妻》でもって神川さんのマナクリーチャーを排除しつつ、何もされないうちに《ゴブリンの先達》と《板金鎧の土百足》、そして《稲妻》が20点のライフを削りきる。彼女の使ったフェッチランドやライフを犠牲にする《朽ちゆくヒル》は僕のデッキ相手にかなり相性が悪いようだった。
 相性差で勝ってしまったような気がして、少し申し訳ない気持ちになりながら第二戦に臨む―








「なかなかいいデッキでしょう。」
―ええとても。と僕が相槌を打つとそのまま彼女は続ける。
「徴兵ドランとでも呼んで欲しいですね。」
愛良さんは得意げな顔で自身のデッキの解説を始めた。少しでも彼女と長く話していたかった僕はサイドボードやコンセプトについても話題を振ったのだが、彼女は何一つ嫌な顔をせずに(むしろより一層得意げに)デッキの話をしてくれた。
「黒をいれずにバントカラーでまとめる事もできたのですが、そうするとジェイス入れたくなっちゃいますし。」
「ああ、アレ高いですものね…」
「私そもそもが黒いデッキが好きでして。最初はこのデッキも白黒緑だったんですけどどうも決定打に欠けているところがありましてね。そこを流行りに乗っかって徴兵ギミックを仕込んでみたわけです」
よく通る澄んだ声で解説を始めるので周りのゲームが終わった人たちもこちらを覗きこんでいる。トーナメントでの全勝者はFNM規模でもちょっとした憧れで、皆話を聞きたがるものらしい。このサラリーマン風の男性たちが若いゴシックドレスの女性の話に熱心に聞き入っている光景は他では見難く、珍奇でありながらもどこかほほえましい。
 黒をタッチすることで序盤役立つ《朽ちゆくヒル》や《マラキールの血魔女》にも対処できる《大渦の脈動》を投入することができるうえ、青マナは終盤の《失われたアラーラの君主》に一つ使うだけなので容易に4色を運用できるそうである。そして僕のような赤単相手にはヒルも脈動も不要なので、サイド後にバントカラーのみに切り替えて《ロウクスの戦修道士》や《コーの火歩き》で回復もできるようになっているらしい。
 店内に蛍の光が流れ始め、全勝者にプロモーションカードとブースターパックが手渡される。すっかりデュエルモードから日常モードに戻った神川さんは嬉しそうにパックを開けている。

「ではそろそろ閉店です。本日もフライデーナイトマジックにご参加いただきありがとうございました。」
店員さんの声が響き、デュエリストたちは各々の感想や戦績を話し合いながら数人ずつ帰っていく。神川さんは今日は一人で来ているらしく、開封が終わったパックを鞄にしまって立ち去ろうとしていた。
「あ…お疲れ様です。」
視界に入ったから別れの挨拶をするだけだ、と自分に言い訳をしながら声をかけてみた。
「お疲れ様です。ではまた。」と微笑んで彼女は店を出て行った。



 勝負の余韻と彼女の余韻とに浸っているところ後ろから声をかけられる。
「お疲れ様です 村田さん。どうでした?」
この店に始めてきた時に知り合い、それ以来何かと話をする島本さんだ。身長は1m80cm超、横幅も結構なのものでかなり存在感がある。会社帰りらしく、スーツ姿だ。
「あ、どうも。僕2-1でした。最後のバントがかなりきつかったですね。」
あえて彼女と話したことを隠してみる。彼女には関心がないかのように振舞いたかったのだ。
「神河愛良、多分日本一強い女性プレイヤーなんじゃないかな。」
そんな僕の意図を見透かしたかのように、島本さんは僕の興味の中心の話題に踏み込んでくる。
「そうなんですか!そんなすごい人だったんですか!?」
「いや…単に彼女ほど強い女性プレイヤーがいないだけですけど。」
「あ、そりゃそうですよね。」
確かに彼女の取り巻き以外ではほとんど女性プレイヤーを見た事がない。
「それはそうとよかったらメシ行きませんか?私昼食べてなくて。」
島本さんが大人で本当によかった。同年代の大学の連中なら絶対に下世話な質問をしてきただろう。

 その後食事を済ませて島本さんと別れ、帰り道で僕は神川さんについて得られたわずかな情報について思案にふける。
 彼女はやはり強いプレイヤーなのだ。となると、あの時―4ヶ月前のグランプリ予選―彼女を(偶然)負かした僕は少しだけ他の人より彼女の記憶に引っかかりやすかったのだろうか。それとも年下なのが珍しかったのか(彼女は20歳ちょっとに見えた)、あるいは本当に全員を覚えているのか…。

 答え合わせのしようのない問題に取り組んでいるうちに僕は家に帰り着いていた。時計は10時を大きく回っていた。

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